セミを嫌いになった日


小学生の頃、毎年夏が来ると必死になってセミ採りに没頭していた。
クマゼミアブラゼミニイニイゼミツクツクボウシ・・・。
虫かごに溢れんばかりのセミを押し込み、そこはもはや強制収用所のようであった。
アミにも棒を継ぎ足して、より高いところに止まっているセミを採ろうと躍起になっていた。


しかしなぜか今となってはセミを取るどころか触るのも抵抗がある。
それは小学生の僕を傷つけた一つの出来事が大きく起因している。


その日はいつもどおり家の近所でセミ採りをしていた。
いつもどおりアブラゼミをアミの中に収めた。
セミを捕まえたときの快感に浸りながらアミの中のセミを虫かごに入れようとしたとき、そのセミが若干弱っていることに気付いた。
セミを手に取り、腹側を見てみると・・・、


ぎゃーーー!!!


なんと、アブラゼミの白い体に20匹ほどのウジムシが・・・。
想像を絶する気持ち悪さ。
セミの体と同じ色で一瞬は分からなかったが、よく見るとセミの体は完全に虫食まれていた。
気持ち悪くなった僕はそのセミを投げ捨て、一目散に家へ逃げ帰った。


それ以来、どんなセミも、特にアブラゼミはそのときのイメージがついていてお腹を見ることが出来なくなった。
元気なアブラゼミでもあの体の白色から連想してしまって気分が悪くなる。


それまで没頭していたセミ採りを僕はぱったりとやめた。


今になってよくよくセミのフォルムを見てみると、とても不気味に感じるのは僕だけだろうか。
羽でごまかしているだけで、羽のない姿などもはや妖怪である。
他の気持ち悪がられている虫とそうそう違いがあるとは思えない。
そうだ、あの大きな羽が愛着という虚像を作り出しているに違いない。


みなさん、騙されないように・・・。